世間一般のイメージでは、汚部屋の住人は生活能力が低いと考えられがちですが、実態は全く異なります。私たちの調査事例の中には、医師や弁護士、ITエンジニアといった高学歴で高収入のビジネスパーソンが、驚くほど深刻な汚部屋に住んでいるケースが多々あります。ある三十代の男性エンジニアは、職場で卓越した成果を出しながらも、自宅はコンビニの袋や空き箱が天井近くまで積み上がるほどのゴミ屋敷でした。彼の事例を分析すると、職場での過度な集中とストレスが「実行機能」の枯渇を招き、帰宅後は衣類を脱ぐ、ゴミを捨てるといった日常の些細な動作に割くエネルギーが一切残っていないことが分かりました。これを心理学では「セルフネグレクト」の一種と捉えますが、本人は自分の完璧主義な性格ゆえに、完璧に片付けられないのなら一切手を付けないという、極端な全か無かの思考に陥っていました。彼がこの地獄のような環境から脱出できたきっかけは、マンションの更新拒否に伴う強制的な引っ越しでした。最初は絶望していた彼ですが、プロの清掃業者と共に一週間かけてゴミを搬出した際、自分の部屋の広さを数年ぶりに認識し、強烈な自己嫌悪と同時に「これからは自分を大切にしたい」という強い欲求が芽生えたと言います。新居への引っ越しを機に、彼は「家事の自動化」を徹底しました。ロボット掃除機の導入、定期的な家事代行サービスの契約、そして物を買わないというルールの徹底。汚部屋出身である自分の特性を理解した上で、意志の力に頼らずに環境を維持する仕組みを構築したのです。引っ越しは、彼にとって自分自身のメンタルヘルスの欠陥を補い、生活を再設計するための「強制介入」の役割を果たしました。成功している人ほど、私生活の崩壊を恥じ、隠し続ける傾向にありますが、引っ越しという外部要因によるリセットは、彼らのような高負荷な生活を送る人々にとって、命を繋ぎ止めるための重要なセーフティネットになり得るのです。
高学歴・高収入のビジネスパーソンがなぜ汚部屋を作り、引っ越しで救われたか