ゴミ屋敷問題を科学的に分析する上で欠かせない概念が「セルフネグレクト(自己放任)」です。日本における高齢者のセルフネグレクトに関する調査では、在宅の高齢者のおよそ十パーセントにその兆候が見られるというデータもあり、その中の一定数がゴミ屋敷化という目に見える形での生活崩壊に至っています。この十パーセントという数字は、十人に一人の高齢者が自分自身の健康や衛生管理を適切に行えなくなっているという由々しき事態を示しており、ゴミ屋敷が単なるゴミの問題ではなく、命に関わる「福祉の課題」であることを物語っています。セルフネグレクト状態に陥ると、意欲が著しく低下し、食事を摂ることやゴミを出すこと、身体を清潔に保つことさえも「どうでもいい」と感じるようになります。こうなると、行政や周囲が片付けを提案しても、「放っておいてくれ」という拒絶反応を示すのが一般的です。統計学的に「何人に一人」がゴミ屋敷の住人であるかという問いの裏側には、これほど多くの人々が「生きる意欲」を摩耗させているという社会の歪みが隠されています。また、近年では高齢者だけでなく、若年層のセルフネグレクトも増加傾向にあり、ひきこもりや生活困窮と連動してゴミ屋敷化が進行するケースが目立っています。ある自治体の悉皆調査によれば、苦情が寄せられたゴミ屋敷の住人のうち、約六割が何らかの精神疾患や認知機能の低下を抱えていたという報告もあり、ゴミ屋敷の住人は「支援が必要な患者や被支援者」としての側面が極めて強いことが分かります。セルフネグレクトに陥る確率は、私たちが想像する以上に高く、特に配偶者との死別や定年退職、病気の発症といったライフイベントが重なった際、誰の身にも起こり得ます。ゴミ屋敷を解決するためには、積み上がった物を撤去するだけでなく、その背後にあるセルフネグレクトという心の病に対して、医療と福祉の両面からアプローチを行う必要があります。十人に一人がその予備軍であるという現実を前に、私たちは孤独を前提としない社会の仕組みを再構築しなければならない局面に立たされているのです。