私の実家はひどいゴミ屋敷でした。一人暮らしの母が住むその家は、年々物が増え続け、私が帰省するたびに、足の踏み場がなくなっていくのが分かりました。最初は、見て見ぬふりをしていました。しかし、明らかに異臭がし始め、火事の危険性も感じた時、「もう限界だ」と、私は母を説得し、一緒に片付けを始めることにしたのです。しかし、それが、これほどまでに困難な戦いになるとは、想像もしていませんでした。私が、明らかにゴミだと思われる、黄ばんだ古新聞の束を紐で縛ろうとした瞬間、母は「何してるの!それはまだ読むんだから!」と、血相を変えて怒鳴りました。空のペットボトルをゴミ袋に入れようとすれば、「それはお花を飾るのに使うの!」と、私の手からひったくっていきます。壊れたラジオ、インクの出ないボールペン、穴の開いた靴下。私の目にはガラクタにしか見えない物、その一つ一つに、母は「いつか使う」「これは思い出の品だ」と、もっともらしい理由をつけて、決して捨てさせてくれないのです。私が少しでも強制的に片付けようとすると、「私の物を勝手に捨てるな!」「お前は私を追い出す気か!」と、激しい剣幕で罵倒されました。その姿は、私が知っている穏やかな母とは、まるで別人でした。片付けは一向に進まず、私たちの間には、険悪な空気が流れるだけ。私は、母の健康を心配してやっているのに、なぜ分かってくれないんだという苛立ちと、母を怒らせてしまった罪悪感で、心身ともに疲れ果ててしまいました。後になって、母が軽度の認知症と、物を溜め込むことで孤独感を紛らわしていたことを知りました。あの時の母の怒りは、私に向けられたものではなく、自分の大切な世界が、唯一の心の支えが、壊されてしまうことへの恐怖の叫びだったのです。そのことに気づけなかった私は、ただ、母を傷つけていただけだったのかもしれない。そう思うと、今でも胸が締め付けられます。
ゴミ屋敷の親が物を捨てさせてくれない体験談